一章

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一章

目覚まし時計の甲高い音が私の耳を蹂躙(じゅうりん)する。 「あさ……」 呟いて足を引きずりながらリビングに降りた。 「(らん)! ご飯とパンどっちがいい?」 「パン……」 寝起きの良くない私には母のがなり声は煩わしい。しかし文句を言うと火に油を注ぐので黙って置いてある目玉焼きに醤油を掛ける。 「わっ!」 急にテーブルが動き、醤油が皿からはみ出てしまう。 「あ……とーいち、おはよ」 もう既に制服を着ている桐一は私を冷たい目で見下ろしていた。桐一が立ち上がった拍子にテーブルが動いたらしい。 「……ごっそーさん!」 桐一はやけに急いだ様子でリビングを出て行く。トーストを持った母は首を捻った。 「あれ? 桐一、まだご飯残ってるけど」 「もういい!」 桐一の怒鳴り声と階段を登る音が混じる。「食べ物を粗末にするなんて」と顔をしかめる母が私を見るなり叫ぶ。 「やだ蘭みっともない!」 母の目線に応じて自分を見下ろすと、パジャマのボタンが全部開いていた。そういえば昨日の夜は暑かった気がする。 身体中の毛穴から汗が噴き出し始めた。 桐一に、見られてしまった。気付いただろうか、ブラジャーをしていなかったことに。透けていただろうか。キャミソール一枚しか着ていない私の身体が。 多感な高校生とはいえ、自分の妹の身体なんてわざわざ見たい筈がない。 ——いや、双子の兄に少々身体を見られたからっていちいち動揺している妹なんてそもそもおかしいか。
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