一章

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幼い頃は片時も離れないレベルで仲良し兄妹だったのだけど、気付いたら桐一は私とロクに会話をしてくれなくなっていた。中学生になる前くらいだった気がする。挨拶を返さないことなんてザラで、「明日お父さんとお母さん出掛けるけど晩御飯どうする?」なんて返答の必要な会話でさえ「さぁ」とか「知らね」とか他人だったら殴りたくなるような返事が返ってくる。 でも、反論したことは一度だってない。桐一がこれ以上私に優しくでもなれば、私はどうなるかわからないから。 塔に閉じ込められたラプンツェルではないのだから、人がどうやって愛を営むかは成長するにつれて否応無く学んでしまう。手を繋ぐこと、キスをすること、あるいはそれ以上で感情を表現するのを知ってしまった高校生の今、何かの拍子で桐一にそれを押し付けてしまったら? きっと私は全てを失ってしまうのだろう。 それでもその背中、横顔を見るたびに心臓が跳ね上がる。他の男なら概ね恋愛対象になるのによりによって実の兄を意識してしまう私は、なんて非効率な恋愛脳をしているのだろうか。理屈ではどうにもならないところまで来てしまった私は、桐一に伸ばし掛けた手を無理矢理引っ込めるのにやっとの生活をしている。
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