一章

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桐一に遅れてのんびり登校すると、割とミーハーな性質のクラスメイトが嬉々として会話をしていた。 「もー、ちょーかっこよかったー!」 「ね、まじヤバイ!」 大方ドラマの話だろう。今旬のイケメン俳優が出てるやつ。 「あ、軽谷(かるたに)さん!」 にこやかに話しかけてくるが彼女達とはあまり仲良くはない。 「……おはよう」 「おはよー!」 時速30キロで投げたボールが120キロで返ってくるような、テンションの違和感。 「ね、ね、軽谷さん昨日の月ドラ観てる?」 聞かれると思った。 「……兄妹もののヤツ?」 「そー、軽谷さん双子じゃん? でお兄ちゃんの軽谷くんって顔超キレイじゃん?」 本当は、聞きたいことなんて容易に想像できるけど。 「……だから?」 能天気に焦ったそうな顔で耳に口を近づけてくる。毎日人生楽しいだろうな。 「だからさぁ、その……ちょっと変な感情とかさ……芽生えちゃったりしないの?」 「もー理恵(りえ)! しつれーでしょ!」 窘めてくれたはずの同級生の言葉が鉛を落とされたように身体に沈む。そう、彼女の発言は「失礼」なのだ。だって兄妹が恋愛対象なんて、普通は有り得ないのだから。 「桐一は、兄以上でも以下でもないよ」 「……そーだよねー」 二人の顔から笑みが消えた。「ノリ悪いなー」と顔に書いてある。 兄だと思っているのは嘘ではない。ただ妹という立場を持ってなお、(よこしま)な気持ちを抱いているだけ。
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