案件1、24時間以内に惚れてしまうという予言

3/17
931人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
「栄 旬先生です」 鼻息を荒くして、さっきまでアタフタしていたくせに偉そうになって答える。 「わかりました。ご案内致します」 にっこりと微笑んで受付嬢Aは立ち上がると先に歩いて行く。 エントランスからまっすぐに伸びた廊下をヒールの音を響かせながら姿勢良く歩いて行く受付嬢A。 美人受付嬢Aの見事な曲線美と綺麗にしまった足首を見て妙に感心しながらついて歩く。これが都会の美人受付嬢の足首か。 自分の足首を見おろして、ガッカリしていた。足首って体操とかすればどうにかなるものだろうか? それとも高級マッサージか、高級エステかな? 「わが法律事務所に在籍している弁護士先生は全部で10人です。その10人の弁護士先生方それぞれに専用の部屋があります」 前を歩く受付嬢Aが急に説明を始めた。 「はあ、なるほど」 左右にあるいくつかのドアをやり過ごしてから一番奥のドアをノックし 「はい、どーぞ」 という声を待って静かに扉を開ける受付嬢A。 「失礼致します。旬(しゅん)先生、新人の方がいらしてます。お通ししてもよろしいでしょうか?」 「新人? ああ、音羽くんの紹介のパラリーガルだな。通してくれ」 低くて良く通る声が廊下にいる私にまで聞こえてきていた。 「どうぞ」 受付嬢Aにドアの前を譲られる。 「どうもありがとうございます」 と頭を下げ受付嬢Aの美しい足首を見送った。 「失礼致します。今日からお世話になりますっ、うきゃっ!!」 扉を開けただけで、まだ中に入っていない私の前に立ちはだかる人影。いきなり目の前に立っていたので、凄くびっくりして胸を押さえた。 「びびっくりした……」 扉と室内の境い目に立ちはだかる人は、背が高く、シュッとしたいでたち、はっきりした顔のパーツ、いわゆる正統派のニ枚目男性だった。 うわっ、凄い! この人イケメン過ぎる弁護士だ。 「何が『びびっくりした』だ。それは、私のセリフだ。受付嬢にお礼を言う声が女のように高かったから、まさかと思いドアまで見にきてみたら、案の定……女か」 冷たい表情で私を見おろす男性。 この人が栄 旬先生だろうか。改めて目の前に立つ男性を見上げた。 眉間にシワを刻んでいる。 見るからに取っ付きにくく、明らかに怖そうだ。怖そうな人は、私的にまずアウトだ。 前にパラリーガルとして働いていた街の小さな法律事務所では、穏やかと優しさ出来ている弁護士先生についていた。あの穏やかな先生が「都会は、もう嫌だ。田舎で暮らしたい」と初めて不満を漏らし法律事務所を畳まなければ、きっと今でもあそこでのんびり働いていたと思う。 先生は、今頃北海道で元気にしているだろうか。 私はこんな見るからに横暴そうな人の下で今日から勤まるんだろうか……。不甲斐ないことだが、この法律事務所で働くことにもう不安を感じていた。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!