案件3 ふたりきりのエレベーター

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「冷たい」 「は、すいません。眉間のシワがすごくて、唸っていたし……」 「キミは、眉間のシワが冷たいタオルを乗せれば消えると思ってるのか?」 タオルを掴んだ私の手を握ったまま起き上がる旬先生。 起き上がった旬先生は、ジロッと私を見てから手首を離してくれた。 気まずい。 倒れた人には、とりあえず冷たいタオルでも……と考えた訳だが、安易過ぎたようだ。 それから、私は「あっ」と声をあげていた。 手にしていたタオルからポタポタと雫が落ちてきていたのだ。 うわっ大失敗! ちゃんと絞れて無かったみたい! ぼっとしているうちにタオルから落ちる雫が、どんどん旬先生のズボンを濡らしていく。 「す! すいません! すぐ拭きますね」 ひどく慌てた私は、事もあろうか持っていたビチョビチョタオルで旬先生のズボンを拭こうとしていた。 「やめてくれ。これ以上私のズボンを濡らさないでくれないか」 鋭い目で見られた私は肩をすくめた。 謝ろう。 それしか無い! そう思って旬先生の顔を上目遣いに窺う。 「す!すいません……あれっ?!」 何故か、旬先生の額からは、とんだ汗っかきみたいに雫がいく筋か流れてきていた。 うわっ、汗じゃないよね、これは、またビシャビシャタオルのせいだ。さっき額に当ててたから……。 「拭かないと! べ、別のタオル持ってきますね」 「……はぁ…タオルなら、その棚の1番上の段に入ってる」 ため息をついた旬先生が壁面にある収納棚を指差した。 「はい、わかりました。1番上っと……」 棚は、結構な高さがあり、私の背の高さでは懸命に伸びをして手をつるくらいに伸ばしても1番上の棚まで届かない。 どうしよう。 そうだ。椅子よ、椅子を持って来よう! そう思って、後ろを向くと、すぐ目の前にライトブルーのシャツが迫ってきていた。 旬先生?! どうやら、目の前に迫っているのは旬先生のようだ。 旬先生のしている濃紺のネクタイが私の鼻先にぶらぶらとなり当たる。 「私が自分で取った方が早そうだ」 背の低い私に代わり、タオルを取ろうと旬先生が手を伸ばしていた。 やっぱり背が高いと、こういう時に便利よね〜。 背の高さに感心して旬先生を下から見上げてみた。
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