案件3 ふたりきりのエレベーター

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「これから先のことは分からないが……」 そう言って、私を見て旬先生は言葉を切り 「今は邪魔じゃない」と続けた。 旬先生の言葉に思わず、両方の手で熱くなった頰を押さえる私。 やだ! なんか旬先生ったら、凄く意味深じゃない?! 「まだ邪魔じゃないわけね。まあ、いいけど、旬先生も涼もお互い独身なんだから」 音羽先輩は、ちょっと微笑んで私と旬先生を眺めていた。 「それで。音羽くん。キミの用件はなんだ?」 「そうそう、体調大丈夫?」 音羽先輩は旬先生の近くに行き腰を下ろした。そして、さりげなく旬先生の額に触れる、 「風邪でもひいた?」 絵に描いたような美男美女の親しげな様子を見ていたら、胸がなんだか変な感じで顔がひきつる。 「いや、大丈夫だ。いつものだから、問題は無い」 大学の頃から才女だし美人で切れ者。神様からズルイくらいに沢山の恩恵を受けている女性が音羽先輩だ。 旬先生と音羽先輩は、弁護士同士だし、おまけにイケてる同士だ。その上同じ職場の同僚なんだから親しくて当たり前だ。だが、どうも……その当たり前だけの関係ではないような雰囲気がする。 「いつもの?アレなの? 大丈夫?早めに帰れば?」 いつものアレ? まるで毎月やってくる厄介な生理みたいな言い方だ。 「いや、なれているから平気だ。それに夜、約束があるんだ」 旬先生は優しく音羽先輩に微笑んで見せている。 なれている?ますます女子同士の『私はいつも生理が重いけど、もうなれっこよ』みたいな会話だ。 それよりも、旬先生の笑顔があまりに優しく見えて、あんな笑顔を独り占めしている音羽先輩を羨ましいと思ってしまった。 この2人は、ただの同僚じゃなさそうだ。 ついさっき、意味深なことを言われて凄くドキドキしたのに、今度は、ひどくガッカリした気分だ。 ソファの後ろを手をぶらぶらして歩いていると音羽先輩がふいに私の方へ向いた。
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