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キミが来なけりゃ意味がない……なんか、きゅんとくるセリフだ。
「私が来なけりゃ意味がない……ですか? 大袈裟ですね…」
「大袈裟だと? 内藤くんの歓迎会に主役の内藤くんが欠席では、歓迎会を行う意味がない。違うかな?」
「歓迎会!」
旬先生が倒れたことですっかり歓迎会のことなんか忘れていた。
確かに今夜開けておけと言われてはいた。だが、それは旬先生が倒れる前の話だ。
「先生、歓迎会でしたら私はいつでもいいです。なんなら、しなくても構いませんので。先生は身体を休めて…!!」
話している途中に腕を半ば強引に持っていかれた。
「エレベーターが来たぞ」
「え、だから、あの」
エレベーターの中へぐいぐい引っ張られて、私は仕方なくエレベーターに乗り込んで表示される数字を見上げた。
エレベーターには、ビジネスマン風の男性2人と30代くらいのカップルが先に乗っていた。
ビジネスマンの1人は背の高い白人で、もう1人は日本人だ。時折笑顔を交え英語で会話している。
カップルの方は、夫婦みたいな雰囲気で女性が男性の腕に手を置いて静かに立っている。
高速エレベーターの中からは、六本木の街が見えていた。夕日に紅く染まった空が帯状に広がっていて、六本木にそびえ建つビル群をオレンジ色に染めていた。
エレベーター内で会話をすると知らない人にも内容を知られてしまうので、旬先生に話しかけるのを私はなんとなく躊躇していた。
先生の近くによっていき耳元でこそこそ話すほどの仲でもないし。全く困ったな。それにしても……。
私は自分の腕を見おろした。
旬先生の手が私の腕を掴んだままなのだ。
これは、どうしたものか。このままでいるべきか。はたまた、腕を引くべきか。
イケメン弁護士に腕を掴まれた私は、棒立ちになり緊張していた。
ああ、どうしよう。
このままどんどん上へ行き空の上を進みふんわりした雲の中を通り抜けエレベーターごと神様に召されてしまう気分だ。
一歩も動けずにいる私は、エレベーターが止まるまでの数分間、静かにやたら姿勢を正して立っていた。
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