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エレベーターが止まると乗っていた全員がばらばらと降りていく。
「着いたぞ」
またぐいぐい引っ張られていく私は、エレベーターを降りた時から息を飲んでいた。
すごい景色。360度のパノラマ。
夕焼け空の上にぼっかりと浮かんだレストランみたいだ。
「いらっしゃいませ、ご予約はございますでしょうか?」
すぐに数人のスタッフが現れ、それぞれの客に頭を下げ即座に対応していく。
「栄の名前で予約しています」
先生の言葉を受け、大きく礼をするスタッフ男性。
「栄様でございますね。ご予約ありがとうございます。お待ち致しておりました。こちらにどうぞ」
旬先生と私もきびきびとした態度のスタッフに案内されて歩いていく。
ゆっくりと出来そうな窓際の席に案内され私と旬先生はスタッフにコートを預けた。
「すごい景色ですねー。感動しちゃいます」
ダイナミックにはっきりと姿を見せている東京タワーがこれでもかと自分の存在を主張していた。
「あ、景色は最高ですが、あの、旬先生……体調の方は大丈夫なんですか?」
今更だが、やはり気にかかる。
体調を崩した人を無理させる訳にはいかない。
それに、どうやら歓迎会とは私と旬先生の2人だけで催すようだ。それなら、なおのこと融通をきかして後日行えばいい。
「大丈夫だ。それに私から言い出した約束だ。自分の都合でやったりやらなかったり、そんな勝手なことはしたくない」
「はぁ」
真面目と言えば大真面目。
先生が倒れたところをそばで目にしているからこそ、自分勝手な人だと旬先生を非難したりするはずがないのに。
複雑な私の気持ちを無視して、さっさとナプキンを膝に広げる旬先生を見て、ため息が出た。
自分から言い出したことは、是が非でも守りたいタイプなのね。それならばそれで仕方がない。
今日のところは、そうまでして歓迎会を開いてくれる旬先生にひたすら感謝しよう。それしかない。
ドリンクのリストを眺める旬先生を見て、今夜は歓迎会をなるべく楽しむことに決めていた。
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