案件4 雰囲気の良さに騙される

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ギャルソンが2人来て、食べ終えた皿を下げ、新しい皿を置いた。 フランスパンの上にペースト状で焦げ茶色の物が乗っている。 「イノシシのリェットでございます」 旬先生の発言に気を取られ、ギャルソンの説明がなんだか良く聞き取れなかった。イノシシのデュエット……みたいな感じの言葉だった。とにかくこのペースト状の物がイノシシだろうと見当がつく。おそらくデュエットというからには、二頭の違う種類のイノシシがいい感じに混ざりあった料理ということだろうか。 まるで、デュエットするみたいに。 ギャルソンが下がると、旬先生が話を続ける。 「見えるんだ。私には、相手の些細な表情から仕草から相手の頭に浮かんだものが映像となり私の脳にも浮かぶ。その映像の長さは一瞬の時もあれば数分に及ぶこともある」 「映像が浮かぶ……」 なんかサイコキネシスじみた話になってきて、ゾッとしてきた。フランスパンに指を伸ばした私の全身に鳥肌がたった。 私はUFOとか超能力とか信じないたちだ。目の前にいる弁護士先生から、真面目な表情でそんな話を振られても簡単には信じられない。 むしろ、旬先生って頭が大丈夫だろうかと心配にさえなってきた。もっと言えば、私の今回の就職先大丈夫だろうか。凄く不安になってくる。 なんだか、目の前のイノシシの肉さえも大丈夫な肉だろうかと私の不安を募らせた。 「その映像が私の脳に入り込んでくると、異物が混入してきたために私の脳は、その映像に一度拒否反応を示す。まあ、予防接種の副反応みたいなものだ。その後、あらゆるタイミングで頭痛やめまいが起きて、たちくらみがする。それが、さっきの私の状況だ」 「じゃあ、さっき旬先生が倒れたのは、前田さんが頭に浮かべた映像が脳に入ってきたからだと?」 「そのとおり」 おぉ、ますますゾッとする展開になってきた。複雑怪奇な話で、信用してもいい類いの話なのかさえわからない。 UFOを見たといいはる人に何のメリットがあるのかわからない。本当にいるのかもしれないし、いないかもしれない。だが、信じていない人に『存在する』と、言い張ることが必ずしも得なことだとは言い切れない。 それと同じで旬先生が私に『見える』と言い張ることで何か得をするとは思えない。 だとすると、旬先生の話は本当なのだろうか。
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