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「君は一つのことしか出来ないのか?」
「は? 」
一瞬何のことを言われているのかわからなかった。
「会話しながら、食事をしたまえ」
「あ、はい。このイノシシのデュエットを食べろと言うことですね?」
「デュエット?」
「えぇ、小洒落た名前ですよね。イノシシのデュエット……」
フランスパンをひと齧りして、少し噛んでから早めに飲み込んだ。
イノシシ肉だと思うと、何やら獣くさい気がして、あまり味わいたくない。
料理の名前を教えてくれるのは、親切なようでいて実は案外不親切だ。イノシシ肉だと説明がなければ、フランスパンの上に乗ったペースト状のものを何の気なしに無しに食べる事が出来たはずだ。
何もイノシシ肉をデュエットさせなくても、私はガーリックトーストでも十分なのに。
「それはリェットだ」
「へ?」
味あわないように早く急ぐように飲み下していた為に、旬先生の発言を良く聞いてなかった。
「なんでもない。食べろ……相当腹が減っているようだな」
「はぃ? 何か言いました?」
ようやくパンを食べ終えた私は、ブツブツ言われた気がして旬先生を見た。
「特に何も言ってない」
旬先生は、明らかに少しムッとしている。
へんなの。
視界に入ってくる外の景色をふと眺める。
夕暮れ間近な空。夕陽を浴びオレンジに染まる高いビル群に対して、低い場所は暗く影になっていた。
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