案件4 雰囲気の良さに騙される

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「君は一つのことしか出来ないのか?」 「は? 」 一瞬何のことを言われているのかわからなかった。 「会話しながら、食事をしたまえ」 「あ、はい。このイノシシのデュエットを食べろと言うことですね?」 「デュエット?」 「えぇ、小洒落た名前ですよね。イノシシのデュエット……」 フランスパンをひと齧りして、少し噛んでから早めに飲み込んだ。 イノシシ肉だと思うと、何やら獣くさい気がして、あまり味わいたくない。 料理の名前を教えてくれるのは、親切なようでいて実は案外不親切だ。イノシシ肉だと説明がなければ、フランスパンの上に乗ったペースト状のものを何の気なしに無しに食べる事が出来たはずだ。 何もイノシシ肉をデュエットさせなくても、私はガーリックトーストでも十分なのに。 「それはリェットだ」 「へ?」 味あわないように早く急ぐように飲み下していた為に、旬先生の発言を良く聞いてなかった。 「なんでもない。食べろ……相当腹が減っているようだな」 「はぃ? 何か言いました?」 ようやくパンを食べ終えた私は、ブツブツ言われた気がして旬先生を見た。 「特に何も言ってない」 旬先生は、明らかに少しムッとしている。 へんなの。 視界に入ってくる外の景色をふと眺める。 夕暮れ間近な空。夕陽を浴びオレンジに染まる高いビル群に対して、低い場所は暗く影になっていた。
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