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料理を全て食べ終え、食後のコーヒーを飲んでいる頃には、下の方がオレンジだった景色が暗くなり、ライトアップされた六本木の街が美しく広がってきていた。
「わぁ、東京タワーが綺麗ですねー」
「……」
「やっぱり、さすが迫力ありますね。東京タワー。私は、やっぱり東京タワー派です」
黙ってコーヒーを飲んでいた旬先生が私を見た。
「東京タワー派って、どういうことなんだ?他に何派があるんだ?」
「え、ほ、ほらっスカイツリー派とか」
やばい、他に派閥が思い浮かばない。
やけに無言な空気が嫌で堪らないから、目に付いた東京タワーの話を振っただけなのに。
「とか?」
イジメみたいに攻めてくる旬先生。
「……サンシャイン派とか。あっ、通天閣派とか!」
我ながらいいのを思いついた。ビルの名前を言えばいい。
「規模が小さいな」
「はぃ?」
「何故、国内に固執するんだ? どうせならブルジュハリファとかアブラージュ・アル・ベイト・タワーズの名前を出したらどうだ」
「アブラージュ?」
何だろう、呪文めいた言葉だ。
「アブラージュ・アル・ベイト・タワーズも知らないのか? どうかしてるなキミは」
派手な溜息をつかれていた。
人がせっかく話題を振ってみれば、馬鹿にされて溜息までつかれて。本当に厄介な上司で頭にくる。
どうして、東京タワー綺麗だなとか共感して普通の返事をしてくれないんだろう。
アブラージ…とか、有能弁護士だからって無駄な知識を振りかざしてきて、どうかしているのは、旬先生の方だ。
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