案件4 雰囲気の良さに騙される

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「キミ…今の喜びようだと今まで一度も東京タワーを生で見たことが無いのか?」 「え? まさか!いくらなんでもありますよ」 生で東京タワーを見たことくらいある。まあ、それも何年か前の話だが。 「展望台に上がったことだって…ありますから…小学生の頃ですけど…」 一応、上がった事もあるんだから。小学生の頃に両親と一緒に来た時の話だけど。 今度こそ馬鹿にはさせない。 「特別展望台にも上がったのか?」 「特別? そりゃ、せっかく行ったんですから特別な展望台に上がったに決まってますよ。馬鹿にしないで下さい」 本当は、よく覚えていない。何しろ小学生の頃の話だ。展望台には上がった。それが特別な展望台だかどうかは定かではない。けれど、展望台には行ったのだ。 「馬鹿にはしてないつもりだ。そんな風に聞こえたのなら謝る。私は上ったことが無いんだ。特別展望台にな」 「えっ?」 意外な発言に面食らって旬先生を見た。 旬先生は少し目を細め、東京タワーを眺めながら 「大展望台止まりなんだ。丁度、東京タワーに行ったときに潤の奴が『お腹が痛い』と言い出してな。そのまま急いで帰ってきたんだ」と懐かしそうな様子で話し口をほころばせる。 「小学生の頃に上ったきりだな。機会が無いとこうして近くにあっても上らないものだしな。どうせなら、あの時特別展望台まで上っておきたかったな」 フッと微笑んだ旬先生に見惚れた。 なんて、可愛いらしい笑顔だろう。こんなハニカミ笑顔を見せられたら、世の女性はイチコロだろうなぁ。それくらいの言ってもいいくらいの素敵な笑顔だった。
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