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椅子から立ち上がると、座っている旬先生まで行き、旬先生の腕を掴んだ。
「行きましょう、旬先生!」
旬先生の腕をぐいっと掴んで立ち上がらせる。
「どこへ」
「機会がないと行かないものなんでしょう?」
上ってみたかったのなら、上ればいい。したかったことを後悔して生きていくのは、不幸せだ。機会がないなら、作ればいい。
「は?」
渋々立ち上がった旬先生の腕を引っ張って、どんどん歩く。
「おい、待て」
「早く行きますよ。鉄は熱いうちに打て!ですよ。あとは、ん〜と思い立ったら吉日です」
少し歩いたところで反対に私は旬先生に引っ張られていた。
「落ち着け。まず、会計を済ませる。無銭飲食で捕まりたくないんだ。腕を離せ」
引っ張られたせいで、私は旬先生の胸の辺りまで接近した位置に立っていた。
「あっ、そうですよね。やだ、私……なんだかすいません。突っ走ってしまって」
慌てて旬先生の腕から手をパッと離す。
私ったら、何しようとしてるんだろ。
さっきの可愛いらしいハニカミ笑顔を吹き飛ばし、クールな表情で私を見おろす旬先生。眉間にしわを寄せている。
なんか怒ってるみたい。
それもそうか。
旬先生がたまたま呟いた言葉を鵜呑みにして、即行動に移した私はどうかしている。痛いレベルの女だ。
今日会ったばかりの人なのに。
どうして、どうにかしてあげたい気分になったりしたんだろ。
良く知らないし、本当は優しくなんかないのに。
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