案件4 雰囲気の良さに騙される

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「えっと……旬先生、な、なんですか?」 旬先生の顔を見上げる。 「キミは私をどこに連れて行くつもりだった?」 旬先生の瞳が私の瞳を覗き込んでいた。 「あ、それは……東京タワーです。特別展望台に行ったことが無いようでしたので」 「頼んでもないし、行きたいとも言ってないが」 「そうですけど……」 旬先生がかわいそうに思えて……なんてこと、生意気な気がして、とても言えない。 「行く機会がないと呟いてたので」 機会は作ればいいと私は単純な頭で考えてしまったわけだ。 旬先生は、私の腕から手を離して息をついた。 「は〜あ、キミには呆れるよ。今さら東京タワーに行ってどうするんだ? もう子供じゃないんだ。私が喜ぶとでも? あんなところに行くのは、子供か観光か外人、もしくは……」 ぐっと私の方へ首をのばしてきた旬先生に私はジロジロと全身を見られていた。 緊張して、ごくりと唾を飲み込み旬先生を見上げる。 「恋人同士が街の眺めを楽しむ場所だ。それなのに」 苦々しい表情になる旬先生。 「何故キミと行かなければならないんだ?」 「いや、行かなければって…こともないですよ」 嫌な気分だ。ジロジロ見られたあげくに嫌味を言われた気がする。 良かれと思って、少しだけしたおせっかいが完全にアダになってしまったのだ。 一階について、ムッとしながらエレベーターを降りる。 「内藤くん」 「…なんですか」 「ここから何分かかる?」 「え? ここからどこまででしょうか?」 「察しが悪い。そんなことで私のパラリーガルが勤まるのか?」 コートのポケットからスマホを取り出す旬先生。
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