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旬先生はスマホ画面で何かをささっと指先で操作した後、
「キミがいることを考慮した場合、タクシーを使った方が無難だな」と呟いた。
「え、あの私もですか?」
先にビルの出入り口を目指す旬先生の背中へ尋ねてみる。
くるりと振り返った旬先生は、
「当たり前だろ、言い出したキミが来なくてどうするんだ」といい、うんざりした様な表情をみせながら私の前まで戻ってきた。
訳がわからないで突っ立っている私の手首を旬先生がガシッと掴んできた。
「うっ! え、あの?!」
戸惑う私を旬先生は、ぐんぐん引っ張っていく。
ビルから出て道路の近くに立ち走ってくるタクシーに向かい手をあげた旬先生。
「あの、旬先生」
「キミは質問が多すぎる。質問ならまとめて後に一気にしてくれないか」
「え、でも」
停まったタクシーに乗り込みながら思っていた。
今聞きたい質問なのに。後でするなら意味ないのに。随分とケチで勝手な人だ。全然部下に優しくない。
ムッとしている私の隣で旬先生が、運転手に「東京タワーまで」と行き先を告げた。
なんだかんだごたく並べていた割に東京タワーに本気で行く気になったの? 実に変わった人だ。行くなら行くで、そう言ってくれればいいのに。
結局、行きたいのね。子供が行くところとかいいながら、実際楽しみにしてたりして。
そう思って盗み見た隣に座る旬先生の横顔を見て驚いた。
わっ、なんか笑いをこらえてる顔じゃなあい?この表情。上がる口角を引き締める為に口が梅干しみたいになってる。
やだ! 可愛いとこあるじゃん。
おかしくて、かわいくて、やっぱりおかしくて……。
私は窓の方を向いて笑うのを我慢した。
やだ、ウケる。
それでも、ヒクヒクと動きそうになる肩になんとか力を入れていた。
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