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ヤバイ。ドキドキしてる。
こんなハートビッシリでいかにもどこかから来た恋する2人の為に、作られたオブジェをジッと上司と眺めるのは、正直辛い。
私と旬先生の間で何かが始まるわけでもない。上司と部下というだけのシンプルな仕事関係しかないのだから。
隣の旬先生を横目で見ると、ジッと黙ってオブジェを眺めている。ついでに旬先生の隣に立つカップルを見てみる。
見知らぬカップルの2人は微笑み合って、楽しそうに顔を寄せて会話している。
あれが本来デートしているカップルの姿だ。
カップルの真似をし、少しだけ旬先生のそばに寄って再び一緒にオブジェを眺めた。
ピンクだ。ハートビッシリだ。
「内藤くん、これはスワロフスキーだろうか?」
どうやら、旬先生は、東京タワーのオブジェがスワロフスキーで出来ているのかと材料の話を始めたいようだ。
「はぁ、どうでしょうか」
「よく出来ているな」
「はぁ」
旬先生ときたら、まるで盆栽を見ている老人みたいだ。腰をかがめて背中に手を組んだ老人が「いい枝っぷりだ」と言っている光景とあまり変わりない。
ドキドキ感がゼロになってしぼんできた。
「あの、旬先生」
「スワロフスキー何個で出来ているのかな」
「旬先生、やっぱり私とこんなピンクのオブジェを見ても意味ないですね」
「そうでもない。少し気分が明るくなった」
「えっ、本当ですか?」
「あぁ、ここに連れてきてくれたキミのおかげだな」
ニッコリ笑われて、しぼんだ私のハートがシャキッと目覚めた。
ハートのオブジェのおかげなのか、東京タワーのおかげなのかわからないが、少しは旬先生を無理に連れてきた甲斐があったようだ。
ホッとして胸を撫で下ろしていたら、突然、私の顔近くにヌッと旬先生の顔が寄ってきた。
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