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黙ったままでいる私にしびれを切らしたように旬先生が口火を切った。
「まさかとは思うが」
ゴクリ。
旬先生がカップを再び持ち上げた。ゆっくりカップに口をつけようと旬先生の手が動き出した。
「あ……」
旬先生の唇にカップが触れた瞬間、私は小さく声を漏らしていた。
間接キスだ。私が飲んだ後、旬先生がカップに口をつけたのだ。
恥ずかしい。こんなことで恥ずかしいと感じる私が恥ずかしい。
熱くなる体を内側から冷やすべく、私はマンゴーサンデーをがむしゃらに口へ放り込んだ。
カップから唇を離して、旬先生は「やはりな」と呟いた。
「へ?」
「内藤くん、キミはどうやら、私とキミが同じカップを使ったことに動揺してるようだ」
「まさか!全然そんなの平気ですし」
「潔癖症か、さもなくば、間接キスだと私を意識しているせいだな」
「え? あ、そんなことありませんよ。潔癖症でもありませんし。動揺してませんから。気のせいです」
「そうか。それでは対象を変えてみよう」
「対象ですか?」
「そのスプーンを貸してくれたまえ」
旬先生は、私がサンデーを食べるために持っていたスプーンを指さした。
「はぁ…どうぞ」
スプーンを貸してくれと言われて、素直に旬先生にスプーンを差し出した。
「ひと口もらっていいか?」
「え? あっ…どうぞ」
旬先生はスプーンを受け取ると、マンゴーサンデーが入った透明なガラスの器にスプーンを入れた。
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