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サイコロ型に切られたマンゴーをスプーンですくった旬先生は、
「あ、マンゴーは苦手なんだ。キミが食べてくれないか?」
マンゴーをのせたスプーンを私に向けてくる。
完全に食べさせる格好だ。
今日会ったばかりの弁護士先生に『あーん』なんてしてもらいたくない。そういうのは、付き合っているカップルでやるべきことだ。それにはたから見ると『あーん』は、かなり痛くて恥ずかしい行為のはずだ。
それを知らないのか、旬先生は私の口へとスプーンの先を向けてくる。
「旬先生、あのですね…」
断ろうとすると旬先生の眉間にシワが刻まれた。
「早くスプーンを掴んでくれ」
あ、なんだ。自分で食べろとそういうことか。
なんで、この人は、自分が嫌いなマンゴーをすくっちゃうのかなぁ。
そう思いながら、スプーンを受け取りマンゴーを口へ入れた。
「スプーン貸して」
「はい」
今度こそ、嫌いなマンゴーをすくわずにとっとと食べてもらいたい。
私からスプーンを受け取った旬先生は、スプーンをマジマジと眺めた。
「潔癖症なら、すぐにスプーンは渡さないだろう。極度な潔癖症なら、店員を呼びスプーンをもう一つもらうはずだ。だが、キミはそうせずに私にスプーンを貸した。よって、キミが潔癖症の確率は、30%以下だ」
どこからどう計算すれば、30%以下だと言い切れるのか、まるでわからない。
「ということは、キミが動揺するのは、キミが使ったスプーンを私が使う場面だと思う」
「あの、旬先生……か、仮にですよ。その場面に動揺したとして、しないですけど、しないですけど…それを検証して何か意味があるんですか?」
自分が使ったスプーンを上司に持たれて、ヒラヒラ動かされて、ジッと見られるなんて場面は、今までなかった。そんな場面に遭遇したことがない。
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