案件5 上司と二人きりでいると変な雰囲気になる

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サイコロ型に切られたマンゴーをスプーンですくった旬先生は、 「あ、マンゴーは苦手なんだ。キミが食べてくれないか?」 マンゴーをのせたスプーンを私に向けてくる。 完全に食べさせる格好だ。 今日会ったばかりの弁護士先生に『あーん』なんてしてもらいたくない。そういうのは、付き合っているカップルでやるべきことだ。それにはたから見ると『あーん』は、かなり痛くて恥ずかしい行為のはずだ。 それを知らないのか、旬先生は私の口へとスプーンの先を向けてくる。 「旬先生、あのですね…」 断ろうとすると旬先生の眉間にシワが刻まれた。 「早くスプーンを掴んでくれ」 あ、なんだ。自分で食べろとそういうことか。 なんで、この人は、自分が嫌いなマンゴーをすくっちゃうのかなぁ。 そう思いながら、スプーンを受け取りマンゴーを口へ入れた。 「スプーン貸して」 「はい」 今度こそ、嫌いなマンゴーをすくわずにとっとと食べてもらいたい。 私からスプーンを受け取った旬先生は、スプーンをマジマジと眺めた。 「潔癖症なら、すぐにスプーンは渡さないだろう。極度な潔癖症なら、店員を呼びスプーンをもう一つもらうはずだ。だが、キミはそうせずに私にスプーンを貸した。よって、キミが潔癖症の確率は、30%以下だ」 どこからどう計算すれば、30%以下だと言い切れるのか、まるでわからない。 「ということは、キミが動揺するのは、キミが使ったスプーンを私が使う場面だと思う」 「あの、旬先生……か、仮にですよ。その場面に動揺したとして、しないですけど、しないですけど…それを検証して何か意味があるんですか?」 自分が使ったスプーンを上司に持たれて、ヒラヒラ動かされて、ジッと見られるなんて場面は、今までなかった。そんな場面に遭遇したことがない。
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