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「失礼します」
前田麗子さんは、ベージュのコートを手にして入ってきた。
鮮やかな色合いの花柄ワンピースを着ていた。私が着たら、ただ派手でケバいだけのワンピースだが、前田さんが着ると背が高いしスリムなので、モデルみたいに見映えがする。
前田さんは私に軽く会釈をして旬先生が勧めたソファに座った。
「早速で恐縮です。前田さん、貴方はゴールドフィットネスクラブのトレーナー本郷歩さんをご存知でしたよね?」
「はい」
「その本郷さんに私はストーカー被害の相談を受けました。本郷さんによると、本郷さんにストーカーしているのは、前田さんだということでしたので、直接お話をうかがいたくてお呼び致しました。わざわざ御足労をありがとうございます」
「いえ……」
そろそろと旬先生の隣に座りメモを取りながら前田さんの青白い顔を眺めた。
「一連の会話を録音させて頂いてよろしいですか?」
ICレコーダーを前田さんへ見せる旬先生。
「はい」
向かい側に腰掛けた旬先生は、テーブルの上に昨日依頼人の本郷さんから預かってきた封筒から証拠品を出して並べた。
ビニール袋に個別に入れてある歯ブラシや割り箸、髪の毛、詰め替え用シャンプーの使用後の袋。そして、ラブレターとおぼしき便せん数枚。USBや小さな箱など。
「本郷さんからお預かりしてきた証拠品です。これらは、貴方が本郷さんに送りつけてきた品物だと本郷さんは言ってましたが、身に覚えはありますか?」
前田さんの表情は固く「少し見ても?」とビニール袋を指差した。
「もちろん、どうぞ」
手が少し震えている。
ビニール袋を持ち上げ、ハッキリと顔をしかめた前田さん。
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