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「今のは、簡単な入社試験だ。キミのことは、最初から女性だと知っている。知っててキミを観察していた。突然自分に襲いかかる事件にどう対応するかを見ていたんだ」
呆気に取られていた。
今頃入社試験? 試されていたわけ?
なんか複雑な気分なんだけど。
握手しながら、また思った。
やっぱり私、この先生の下で勤まるのかな?
「内藤 涼くん、キミを歓迎する」
旬先生は、デスクに戻ると何やら資料をペラペラとめくり、クールな表情に戻って
「キミに早速仕事だ」と言った。
よくわからないが、雇われたのなら仕事を懸命にやるしかない。
「はい! 何でしょうか」
早速の仕事は、ありがたい。早く先生の考え方や仕事の取り組み方をみて学びたい。
「今から2階のコンビニへ行き、私に飲み物を買ってきてくれ」
ここで初めての仕事がお買い物ということに、多少ガッカリした。ガッカリしたが笑顔を作る。
「……はい、あのお好みは?」
「1.シアトルコーヒー。2.抹茶ラテ。3.フレッシュオレンジジュース」
「え、3つもですか?」
「…の中から私が今欲しているものを買ってきてください」
「欲しているものですか? そんなのわかりません」
なんだこれは、クイズだろうか?
そうだとすると、かなり面倒くさい。
「キミの観察眼がどのくらいあるのかを判断するための試験です。さぁ、行ってきて」
「そんな……」
また、試験?
一体何回試験するつもりよ。さっき、もう握手したじゃない。ようやく採用されたんじゃなかったの?
旬先生の専用個室から出たものの、訳がわからずに扉にもたれかかる。
全く、試験って偉そうに何よ。
絶対に変わりものだよ、あの先生。
仕方なく私は、長くてスケートでも出来そうな廊下をトボトボと歩き始めた。
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