案件2フィットネスクラブの依頼人

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案件2フィットネスクラブの依頼人

トイレから戻ってみると、旬先生は窓辺に佇み外の景色を眺めていた。 「戻りました」 「ああ、じゃあ行こうか」 「えっと、どちらに?」 「依頼人の所だ」 扉を開けて出て行こうとする旬先生。 コートも着ていないし、バッグも持っていない。 「先生、資料などは持って行かないんですか?それにコートは着ていかないんですか?」 すると、扉を開けようとしていた旬先生が振り返った。 「いらない。ビル内だから必要ない。それと資料の類は全て頭に入っている」 ギロリと睨まれていた。 「あ、そうなんですね。失礼しました」 旬先生の後から小走りでついて行く。 長い廊下を先に歩く旬先生の後ろ姿を見て歩いた。 長い脚だ。 全体的に見てモデルのようにスマートだ。 背が高いとスーツが素敵にきまって似合うこと、この上なし。 そんな風に思いながら、ついて歩いた。 エレベーターの前に着くと、先ほどお世話になった受付嬢Aが小走りにやってきた。 「旬先生、今夜時間ございますか?」 唇が厚くて、魅惑的なフェロモンの匂いがプンプンしてくる。 さっきは、こんなに唇厚くてギトギトしてなかったような…。 「何か?」 エレベーターの下へ行くボタンを押す旬先生。 「はい、ぜひ旬先生にご相談がしたくて」 旬先生の腕に腕を絡めてくる受付嬢A。 「相談。なるほど、いいですよ。ただし、私の相談料はご存じかな? 1時間3万円ですが、よろしいでしょうか?」 1時間3万円! 凄く高額な相談料だ。場所的なものなのか、優秀な弁護士だからなのかは、わからないが高額すぎやしないか? 「やだぁ、旬先生。そんな本格的な相談でなくても構わないんですぅ。お酒を飲みながらとかぁ、気軽に聞いてもらえません?」 旬先生の腕に胸を押し付けているように感じる。 これが都会の女性が使う男を落とす技か。 私が男なら間違いなくイチコロだな。男でも女でも私を落とすのは、釣り堀で魚を釣るよりたやすいはずだ。 胸を押し付けるって技は、胸が大きいから効果があるのだろう。 それに比べて私の胸は? 自分の胸を見おろし、大きなため息が出ていた。 無い。胸が無いな。どこかへ置いてきたのだろうか? 受付嬢Aの相談というのは、旬先生を誘い出す口実みたいだ。 こうも露骨だと、嫌な感じすらしない。むしろ、中学生の運動部の公式試合くらいに清々しい。
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