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案件3 ふたりきりのエレベーター
早めのランチを食べて、オフィスに戻ってみると、知らない25、6歳程の男性がソファに座っていた。
少しだけ微笑を浮かべて私をちらっとみた後、男性はガムをクチャクチャ言わせて視線をそらした。
スーツ姿の会社員風な男性だが、態度が悪い。
依頼人だろうか?
「あの失礼ですが、旬先生をお待ちですか?」
「ええ」
ちらっと、また私を見た男性は、少し微笑しながら目をそらした。
私を見る目つきが少し鋭いように感じた。
「お茶かコーヒーでもお持ちしますね」
扉から出ようとした私に男性が
「そういうのもいりません。ご心配なく」
と食い気味に言ってきた。
「そうですか。あのご相談ですか?」
「それも、ご心配なく」
そう言ってから、手を上げて体を反らし「あ〜あ」と伸びをする男性。
ご心配なくと言われても、なんだか困る。
知らない男性と同じ室内にいて話さずにいるのは、正直気まずい。
「あのぅ…」
何か話し掛けようと思った矢先、扉が開いて旬先生が現れた。
旬先生は男性を見るなり、立っていた私を無視して、その男性に話し掛ける。
「若井(わかい)くん、待たせたかな?」
旬先生と男性は既に知り合いのようだ。
「いえ、大丈夫っすよ」
若井くんと呼ばれた男性は、ソファから立ち上がり旬先生がデスクにつくと、デスクの前に立った。
「始めてくれ」
いきなり、ズボンのポケットからスマホを取り出した若井さんは、スマホを片手でスクロールさせながら旬先生に話し始めた。
「は〜い、加害者の『前田 麗子』のマンションの管理人に聞いたところ、麗子は、いつも1人で帰宅しており、男性と帰宅したところは、管理人がそのマンションに勤務を始めた3年前から1度も見たことがないそうです」
加害者?
この人は、依頼人ではなく調査員か何かなのかしらね。それならそうと言ってくれたらいいのに。
そう思いながら、急いで自分のデスクへ行き一応、忘れないように若井さんの報告をメモを取った。
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