別離の時

4/6
230人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 謝罪の言葉は口にはしなかった。 形になってしまったら、それは余計に滉を苦しめると思ったから。  滉は抱き締めた美夕をしばらく離さなかったが、もうそれ以上の事を求めはしなかった。 「病院の玄関にタクシー乗り場があったね。わたし、タクシーで帰る」 「は?」 「わたし、このまま帰るから」  車を降りた美夕の言葉に滉は「どうして!」と叫ぶ。 「楊に、会わないってのか!?」  美夕は静かに頷き、歩き出した。 滉は慌ててロックをし、美夕を追った。  病院の建物に近付くに連れ、外灯が増えて明るくなる。 小さな細い背中を眩しそうに目を細め、見つめる滉は苦しげに言った。 「楊に会わないのは、俺のせいか」  美夕は振り向かないまま首を振った。 「滉君のせいじゃないよ。わたしが決めたの。わたしは、滉君とも、兄さんとも……楊君とも、一緒にいたらいけない、って」 「なんだよそれ! 誰かに言われたのか!」  美夕の言葉に被せる勢いで滉が言う。 滉の問い掛けに、直ぐに答えは返って来なかった。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!