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謝罪の言葉は口にはしなかった。
形になってしまったら、それは余計に滉を苦しめると思ったから。
滉は抱き締めた美夕をしばらく離さなかったが、もうそれ以上の事を求めはしなかった。
「病院の玄関にタクシー乗り場があったね。わたし、タクシーで帰る」
「は?」
「わたし、このまま帰るから」
車を降りた美夕の言葉に滉は「どうして!」と叫ぶ。
「楊に、会わないってのか!?」
美夕は静かに頷き、歩き出した。
滉は慌ててロックをし、美夕を追った。
病院の建物に近付くに連れ、外灯が増えて明るくなる。
小さな細い背中を眩しそうに目を細め、見つめる滉は苦しげに言った。
「楊に会わないのは、俺のせいか」
美夕は振り向かないまま首を振った。
「滉君のせいじゃないよ。わたしが決めたの。わたしは、滉君とも、兄さんとも……楊君とも、一緒にいたらいけない、って」
「なんだよそれ! 誰かに言われたのか!」
美夕の言葉に被せる勢いで滉が言う。
滉の問い掛けに、直ぐに答えは返って来なかった。
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