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少しの間、黙って歩いていた美夕は、建物のそばまで来て歩を止め振り向いた。
「誰にも言われてないよ。ずっと考えてた事なの」
滉をこれ以上傷付けない為に、そう言うしかなかった。
本当は、会いたい。
抱き締めたい。
この手で。
この躰で。
この肌で。
全身で愛してるあの人を感じたい。
どんなに掻き消そうとしても脳裏に浮かぶ愛しい男。
黙っていたら涙が溢れてきそうだった。
美夕は滉に気付かれないよう、そっと頭を振る。
耐えるの、美夕。
これ以上、誰も傷付かない為に。
「わたしは、誰のものにもならないよ。お義父さんのところに行きます」
言葉を失い立ち尽くす滉に美夕は寂しげに笑って肩を竦めた。
「これが、わたしの答え」
美夕の立つ場所に、スッとタクシーが滑り込んだ。
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