別離の時

6/6
230人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「日本を発つまで三浦さんのところにお世話になるね」 「美夕……」  タクシーのドアが開き、近付こうとした滉に美夕は言い放つ。 「来ないで」  強引な滉を止める強さを持った声だった。 数メートル離れた場所でどうする事も出来ず立つ滉に美夕は、柔らかに言った。 「ありがとう滉君。さよなら」  それだけ言い、美夕はタクシーに乗り込んだ。 ドアが閉まり、手短かに行先を告げるとタクシーは発進した。  美夕は振り向かず、シートに埋もれポロポロと涙を零した。  楊への言葉は敢えて残さなかった。 滉への想いを、綺麗に清算できなかったから。 「苦しい……」  小さく小さく呟いた美夕は、そっと目を閉じた。  楊君。  元気になってね、絶対に。  以前の楊君に戻りますように。  楊君、愛してます。  さようならーー。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!