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「チビくーん」
美夕が呼べば、いつもなら直ぐに飛んで来る茶トラの猫が今朝は何度呼んでも出て来ない。
「何処に行っちゃったの?」
もう一度呼ぼうとした時、ダイニングのドアが開き、香月家の執事、三浦が顔を出した。
直ぐに、三浦の妻も続く。
「美夕さんが呼んでも、チビ君は出て来ませんか」
「わたしが呼んでも?」
三浦の言葉に美夕は首を傾げた。
「ええ、今朝は用意したエサを食べた様子がないの。多分、夕べから戻ってないのね」
三浦の妻が柔らかな声で言った。
「名前はチビ君でももう立派な成猫ですからね。パトロールの範囲が広がったのでしょう」
「きっと、お腹が空いたら帰って来ますよ。私たちも朝食にしましょう」
夫妻の優しい言葉に美夕は頷いた。
優香の事件の後、香月の家には一度も顔を出していないという三浦の妻は、美夕も見た事がなかった。
三浦に連れられてこの家に来た日、初めて彼女と対面したのだが。
実の祖母は、母の優香にそっくりだった。
美夕は会った瞬間、涙を零し、祖母は美夕を抱き締めた。
美夕を見れば自ずと優香の事を思い出してしまうから、と遠去けてきた祖母は、
『やっと、抱き締められましたよ』
と優しく言った。
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