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祖母の腕の中で美夕は『ごめんねなさい』と呟いていた。
三浦夫妻は謝る美夕に首を振った。
『あなたは優香が残してくれた大事な宝物ですよ』
嵐のように激しく荒れる中を懸命に生きて来た美夕の心は静養を求めていた。
夫妻の優しさに抱かれ、義父にもう少しここにいさせて、と頼み、気付けばあの日から一年の時が経過していた。
「今日は、貴臣君が住んでいた離れの取り壊し作業が始まるんですよ」
和やかな朝食の中で、貴臣の名前が一年ぶりくらいに出た。
ドキリとした美夕だったが、同時に疑問が湧いた。
「兄さんの離れ、壊してしまうの?」
美夕の問い掛けに三浦は「ええ」と応えた。
「貴臣君はもうあそこに住んではいないのですよ。半年くらい前に、旦那様のツテで地方に行かれました」
「そう、なの……」
三浦はダイニングの明るい窓の外を遠く眺めながら言った。
「母屋もそのうち誰もいなくなるかもしれませんね。どうしましょうかね……」
美夕の胸には聞きたい事が溢れていた。
ここに来る時に連れて来た茶トラの猫。
名前を〝チビ〟とだけ呼ぶようになった。
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