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二人っきりでのお出かけ
翌日、十一時になる十分前に、僕は駅前に着いた。
そして彼は十一時ぴったりにやってきた。
「時間通りだね」
「…お前、いつから来てたんだよ?」
「待ち合わせはいつも、十分から五分ぐらいまえに来るようにしているんだ」
アキちゃんからは無意味に真面目だと言われる。
ちなみにアキちゃんも彼と一緒で、待ち合わせ時間ぴったりに来るタイプ。
「ったく…。早く行くぞ」
「うん」
私服の彼の姿はいつも学校で見ているけれど、外で見るとまた違った感じがする。
そして一緒に歩いて気付いたことだけど、彼は外でも注目を集める。
まあモデルとして、雑誌に結構出ているしな。
派手なタイプだし、注目されるのも好きだし…。
「ん? ボクの顔に何かついてる?」
「うっううん! お肌スベスベしているな~って思って」
はっ! とっさのこととは言え、変な返し方をしてしまった。
また『気持ち悪い』って言われるかと思ったら、何故か彼は上機嫌になる。
「ふふん。毎日欠かさず手入れしているからな」
…どうやら努力を認められたことが嬉しいらしい。
「お前は全くしていなさそうだな」
しかし僕を見て、険しい表情になる。
「うっ…! だっだってそういうの、全然分かんないんだもん」
「じゃあ教えてやるよ。まずはドラックストアに行くか」
妙なスイッチを入れてしまったぁ!
けれど彼は嬉しそうだし、良いか。
その後、ドラックストアで彼に化粧品を勧められ、いくつか買うことになった。
途中で本屋で、彼が表紙の雑誌を見つけたので、購入した。
お昼時になったので、ファーストフード店に入って、昼食を食べながら雑誌を見て、話しが盛り上がった。
…良かった。思ったより、彼は楽しんでくれている。
昼食を食べ終えた後はボーリングを楽しんだ。
夢中になる彼を見ると、僕も嬉しくなる。
そしてゲームコーナーに行った時、――僕は改めて現実を思い知る。
「あれぇ? 翔じゃん」
「ホントだ」
「ああ、お前ら」
5人の僕達と同じ歳ぐらいの少年達が、彼に親しげに声をかけてきた。
「何? 今日のツレってコイツだけ?」
そのうちの一人が、僕を興味深く見てくる。
「ツレってーかパシリだろう?」
…ちょっと否定できない。
「ウルセー。文句があんなら、近付くな」
彼が不機嫌そうに言うので、少年達はちょっとビックリした後、とりつくろうように笑う。
「あ、悪い悪い」
「初対面だったからさ。ところで翔と同じガッコ?」
「えっと、はい…。龍雅くんと同じクラスの麻野拓海です」
「敬語なんて使うなよ。コイツらとボク達、同じ歳なんだし」
彼は未だ怒っている様子。
「コイツらは同じ中学でさ、会うのは久し振りなんだけど」
そうは言っているけど…何か不機嫌。
でも少年達は彼と話をしたくてたまらないようだ。
「そうそう。翔、久し振りなんだし、一緒に遊ばないか?」
「モデルの話し、聞かせろよ。可愛いコ、いっぱいいるんだろう?」
何だか僕が入れない空気になったので、一歩後ろに下がると、すぐに彼にバレる。
「麻野、どこ行く気だ?」
「えっと……ちょっとトイレに行ってくるね」
本当は空気を読んで帰ろうと思ったけど、彼から出る空気がそれを許さないと言っているようだった。
僕は逃げるようにトイレに向かう。
「ふぅ…。ゲームコーナーから遠い場所にあって、助かったかも」
トイレは隅の方に設置されているので、広いゲームコーナーからは距離がある。
少しぐらい戻るのが遅くなったって、言い訳できる。
「…考え方が暗いよ、僕」
トイレに誰もいないことを良い事に、独り言を呟いた。
「あっ、と。麻野くん、だよね?」
そこでトイレに、先程顔を合わせた少年達が入って来た。
2人は僕をじっと見てくる。
「そうだけど…何、かな?」
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