第2章 羨望と嫉妬

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 私が談話室に入ろうとすると、すぐに景子が気づき、 「琴美姉ちゃん!!」  と言って手を振る。私はゆっくりと二人に近づき、同じテーブルに着いた。 「琴美姉ちゃん、もう大丈夫なの?」  景子が尋ねる。 「うん。もう大丈夫だよ。吐き気はおさまったし、まだ少し体は怠いけど」 「そっか。もしかして、由紀恵姉ちゃんたちが喋ってるので目が覚めたの?」 「あ、うん。まあ、そうだけど」  私は頷いた。 「私たちも由紀恵さんの邪魔をしちゃ悪いと思って部屋を出てきたの」  優美が少し大人びた口調で言う。二人も小学生なりに、由紀恵に気を使ったのだろう。あるいは、私と同じような羨望や嫉妬の気持ちも少しはあったのかもしれない。  私たちは小一時間ほど、談話室で他愛もない会話をした後で、三人揃って部屋に戻った。もう、由紀恵の友達は帰ってしまったのか、部屋の中から話し声は聞こえない。扉を開けて中を覗いてみると、由紀恵は一人でベッドに腰掛けて、窓の外に広がる夕暮れ空を眺めていた。  由紀恵は私たちが戻ってきたことに気づくと、振り返ってから、 「うるさくしてごめんな」  と謝った。 「気にしなくて大丈夫だよ」  私は笑顔で答える。景子と優美も笑顔で答えてベッドに戻る。ただ、由紀恵の顔にはどこか寂しさが漂っている。私にもその気持ちはわかる。友達がお見舞いに来てくれると、そのときは嬉しいけど、帰ってしまうと急に自分だけ取り残されたような気分になって、寂しくなってしまう。こんなときこそ、四人部屋なのが助けになる。 「ねえ、由紀恵ちゃん。お友達とどんな話をしたの?」  私は由紀恵に話しかけた。 「ああ、来月の試合の話。あいつらみんな出場するからな」 「へえ、みんなすごいんだね。もちろん、由紀恵ちゃんも」 「別にすごくなんかないよ。出たところで、別に優勝できるほどの力があるわけじゃないし」  由紀恵は小さくため息を吐いた。その辺りの気持はスポーツをやっていない私にはよくわからない。私で言うなら、何かの賞に応募しても賞を取れないというようなところだろうか。でも、私はこれまでに自分の小説を何かの賞に応募したこともないし、しようと思ったこともないから、やはりよくわからない。  私がどんな言葉をかければ良いのかと考えていると、由紀恵の方から口を開いた。 「なあ、琴美。もうすぐ検温の時間だけど、その前にちょっと二人だけで話がしたいんだけど、いいか?」 「もちろん」  私は頷いた。 「じゃあ、談話室に行こう」  由紀恵はそう言うと、景子と優美の方を向いて、 「悪いけど、ちょっと二人だけで出てくるな」  と、断った。二人は黙って私たちの方を向いて頷いた。そして、部屋を出た私たちは、並んで廊下を歩き、談話室へ向かう。その間、由紀恵がどんな話をするのだろうと、私はずっと考えていた。  
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