第2章 羨望と嫉妬

5/6
前へ
/50ページ
次へ
 談話室に着くと、私達は一番窓に近い席に向かい合って座りった。すると、さっそく由紀恵が切り出す。 「来月の試合のことなんだけど、やっぱり私、みんなの応援をしに行きたい」 「いいね。行こうよ」  私は勢いよく反応した。すると、由紀恵も笑顔を浮かべる。 「でも、治療が始まって、体調が悪くなったらどうしようかと思って。今日の昼の琴美を見てたら、私もあんなふうになるのかって、不安になってさ」  由紀恵は表情を不安そうなものに変える。その気持は痛いほどわかる。私としても、できるだけ辛そうなところは見せないように気を使ったつもりだけど、やっぱり目の前で吐いたりしたら由紀恵が不安になるのも仕方がない。 「はきりいって、体調に関してはどうなるかわからない。だって、私はお医者さんじゃないし。でもね、私に関して言えば、だいたい次の日にはちゃんと動けるようになるよ」 「そうか。琴美は毎週水曜日が抗がん剤治療の日だったっけ?」 「そうだよ。由紀恵ちゃんは?」 「私は火曜日。来週の火曜日が初めてなんだ」 「そっか。だったら、多分、週末には動けるようになるよ。試合って、土曜日か日曜日なんでしょ?」 「うん、土曜日」 「だったら大丈夫だよ」  私は笑顔でそう言った。その言葉で、由紀恵は少し安心したように見える。 「それで、琴美にちょっとお願いがあるんだ」 「お願いって何?」  私が問いかけると、由紀恵は少し言いにくそうに頭を掻きながら、 「一緒に試合場に行ってほしいんだ」  と、小声で呟くように言った。 「試合場に? もちろんいいよ。一緒に行こうって言ったじゃない。でも、どうして急に?」 「いや、今日お見舞いに来てた奴らがさ、是非応援に来て欲しいいって言うしさ。だけど、一人で病院を抜け出していくのは不安だしさ」 「そうだよね。私も一人で抜け出す勇気なんてないもん。でも二人なら大丈夫」  私がそう答えると、由紀恵は満面の笑みを浮かべた。だけど、そうなると、それなりにきちんとした計画を立てなければならない。もしも、医師や看護師に見つかりでもしたら大変だ。そういう意味では、景子と優美にも協力してもらった方がいいのかもしれない。何かのはずみで誰かが訪ねてきたりしたときには、口裏を合わせておかないと全てバレてしまう。  私が景子と優美も仲間に入れるように提案すると、由紀恵は納得して頷いた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加