第2章 羨望と嫉妬

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 私たちが部屋に戻ると、ちょうど看護師が検温にやってきていた。私たちが部屋に入るとすぐに、 「どこに行ってたの?」  と看護師が笑顔で尋ねる。決まった時間に部屋にいなかったことを怒っている様子はない。私たちは、大人しく自分たちのベッドに戻り、看護師から体温計を受け取った。  看護師が去った後、私は由紀恵のベッドの脇に立ち、景子と優美を呼び寄せた。由紀恵のいう試合まではまだ一ヶ月ほどあるけど、計画は早いうちから練っていた方がいい。  私たちが病院を脱走して陸上の試合を見に行くことを話すと、すぐさま景子が、 「いいなあ。私も行きたい!!」  と反応する。 「うーん、ごめんね。景子ちゃんは連れて行けないの。でも、ちゃんと何かお土産買ってくるから協力してくれない?」  私がそう言って(なだ)めると、景子は素直に、 「わかった。じゃあ協力する。何を買ってきてもらうかは、また考えとくね」  と頷いた。 「あんまり高いものは無理だよ。私も由紀恵ちゃんも、そんなにお金持ってるわけじゃないんだから」 「わかってるって」  景子は悪戯(いたずら)っぽく笑う。  それから私は優美にも、 「よろしくね。優美ちゃんも何か欲しいもの考えといてね」  とお願いする。 「琴美さん、私は別に何もいらないよ。ちゃんと協力もするよ」  優美は笑顔で答えた。    私たちは夕食を済ませると、由紀恵のベッドの周りに集まって、脱走計画について話し合った。どの時間に、どうやって病院を抜け出すか。そういう話には、病院の内部構造や人の出入りをよく知っている景子の知識が役に立つ。それから、もしも脱走計画がバレそうになったらどうやって誤魔化すか。そういうところでは、聡明な優美の発案が活きてくる。  とはいえ、試合を見に行くとは言っても、最初から最後まで見ているわけにはいかない。時間的な制約があることはもちろんだけど、私たちの体調の面からしてもずっと外にいるのは危険だ。万が一にも外で倒れたりなんかすると、脱走がバレるというレベルではなく、病気の治療にも影響しかねない。ひいては、それが命の危険に繋がる可能性だってある。  私たちは二時間ほど脱走計画について入念に話し合った。もちろん、脱走計画については四人以外の誰にも秘密。それが絶対の約束だ。もしも事前に計画がバレてしまえば、脱走どころではなくなってしまう。私たちは、四人で手を重ねて秘密を守ることを誓い合う。そして私たちは、それぞれのベッドで眠りに就いていった。
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