第4章 創作

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 とはいえ、実際のところ、殆どの作品が短編で、短いものでは原稿用紙十枚くらいだ。それくらいならばあっという間に書いてしまえるし、そういう意味ではそんなに沢山の作品を書いたという思いはない。むしろ、これから本格的な作品を多く書いていきたいと思っている。だからこそ、病気になんか負けてはいられない。  私たちが会話をしている向かいでは、由紀恵がスケッチブックをしまおうとしている。どんな絵を描いているのかはわからない。気にはなるけど、途中で見てしまうと、完成したときに見る楽しみが減ってしまうような気がするし、由紀恵も簡単には見せてくれないような気がする。 「そっちの絵はどんな感じ?」  今度は由紀恵に声をかけてみる。 「まあまあだ。久しぶりに描くから、なかなか上手くいかないが」 「描いてるうちに、きっと慣れてくるよ」 「ああ、たぶんな。でも、久しぶりに絵を描くのもなかなかいいものだな」 「そっか。それは良かった」  そう答えながら景子のベッドの方に視線を向けると、ポータブルゲーム機を握りしめたまま眠っていた。 「もう、仕方ないな」  私はベッドから降り、景子のそばに寄って、その手からポータブルゲーム機を取り、棚にしまった。それから、景子を起こさないように、優しく布団をかける。  ちょうどそこに看護師がやってきて、 「電気消すわよ」  と、私達に向かって告げた。  私は急いでベッドに戻り、布団に潜り込む。それと同時に、看護師が部屋の灯りを消した。とはいえ、部屋の中は真っ暗になるわけじゃない。窓からは駐車場の電灯の灯りも入り込んでくる。それに、一応ベッドには読書灯も付いているから、カーテンで仕切ってさえしまえば、他の三人に大した迷惑もかけずに読書をすることもできる。  私はときどき、眠れない夜にはカーテンで自分のベッドを囲って読書をしている。あまり夜更かしをするのは病気に良くないことくらいわかっているけど、それでも眠れずにじっとしているよりは、少しでも何かをしている方がマシだ。  だけど、今日は待ってましたとばかりに、すぐに眠気が襲ってくる。どうやら、久しぶりにまともに小説を書こうとしたせいで、思っていた以上に疲れていたらしい。以前なら小説を書く作業は楽しいばかりで、こんなに疲れたことはなかった。やはり病気のせいで疲れやすくなっているのだろう。  明日は私が抗がん剤治療を受ける番だ。そのためにも、早く眠って疲れを取るに越したことはない。私は目を閉じると、そのまま眠りに落ちていった。  
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