第4章 創作

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 私たちが辛い日々を乗り越えるための目標の話をしていたとき、景子は全くと言っていいくらい興味を示さなかった。大好きなポータブルゲーム機で遊んでいたからということもあるだろうけど、それだけじゃない気がする。今朝から私も優美も小説を書き、由紀恵が絵を描いていても、何も言わずにポータブルゲーム機で遊んでいた。  そういえば、景子はときどき、『病気なんか治らなくてもいい』とか、『私の病気は絶対治らない』とか、自棄(やけ)と思えるような言葉を口にすることがある。元の生活に戻りたくないような理由が何かあるのだろうか?  両親による虐待とか? でも、景子の両親が来ているのは何度も見ているけど、お父さんもお母さんも優しそうな人だった。とても景子を虐待するような人たちには見えない。  だったら、学校でのイジメ? だけど、病院でもそうだけど、景子は割と誰とでも仲良く付き合える。性格的にもイジメの対象になるとは考え辛い。  だとすれば、入院生活が長くなって、単に元の生活にもどる野が不安なのか?  どんなに考えても、答えは出てこない。その正確な答えを知ってるのは景子だけなのだから。できることなら、景子にも私たちと同じように何か目標を持って、辛い日々を乗り越えてほしいと思う。もちろん、強要はできないけど、少しでも私たちがやっていることに興味を示してくれると嬉しい。  そんなことを考えているうちに、抗がん剤の点滴は終わった。カーテンが開けられ、他の3人の姿が目に写る。  優美は相変わらずノートに文を書き連ねている。その様子には鬼気迫るものがある。由紀恵は横たわって眠っている。絵を描くのに少し飽きたのかもしれない。そして、景子の姿はそこになかった。 「景子ちゃんはどこに行ったの?」  私は優美に尋ねてみた。すると、優美は鉛筆を置いて私の方を向き、 「わからないの。琴美さんの点滴が始まったら、すぐに黙って部屋を出ていって、それから戻ってきてないの」 「談話室にでも行ったのかな?」  私は首を捻る。その間に、優美は再び鉛筆を持ち、小説を書き始めた。  正直²言えば、少し気になるところもあるから、すぐにでも探しに行きたい。だけど、すでに軽い吐き気と怠さが襲い始めているし、こんな体では十分に動き回ることなんてできない。私は諦めて、そのまま少し眠ることにした。きっと、眠ってる間に景子も戻ってくるに違いない。
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