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しばらくすると、景子と優美が帰ってきた。二人は部屋の入口から中の様子を伺い、私たちが談笑しているのを確認すると、安心した表情で入ってくる。
そんな二人を見て、由紀恵は、
「さっきはごめんね」
と小さく頭を下げる。
「大丈夫だよ」
すぐに景子がそれに応じる。優美は何も言わないが、笑顔で応えてみせる。私と由紀恵は、顔を見合わせて笑顔を浮かべた。
「ねえ、ところでさっきの話だけど、試合、本当に見に行っちゃおうよ」
私は由紀恵に持ちかける。
「えっ!? 本気だったのか?」
由紀恵は目を大きく見開いて私を見る。私たちの会話の流れを知らない景子と優美は、キョトンとした顔をしている。
「もちろん本気だよ。言ったでしょう? 私も外に出て自由にしたいって」
「だけど、試合なんか見に行ったって、君は楽しくもなんともないだろう? それに、試合を見に行ったって、告白するわけでもないし」
「どうして?」
「だって、私はこれからどうなるかわからないんだぞ? 死ぬかもしれないんだぞ? そんな奴から告白なんかされたら、先輩だって迷惑に違いないさ」
由紀恵はため息を吐いた。その言葉に、私は何も言い返せない。きっと、私だって同じだからだ。病気の私から告白なんかされたら、先輩だって迷惑だと思う。
フラれたとしても、その後もし私が死んだりなんかしたら、先輩だって後味が悪いだろう。万が一フラれなかったとしても、病気の私にはできることにも限りがあるし、先輩にいっぱい我慢させなければならないと思う。
そう考えると、やっぱり告白なんてできない。自分にできないことを、他人に強要するわけにはいかない。
私が何も言わずにいると、由紀恵も何かを感じ取ったのか、
「ごめんな。気を使ってくれたのに」
と謝る。
「そんなことないよ。私の方こそ無神経なことばかり言ってごめんね」
私は慌てて謝った。
すると景子がベッドの上から、
「ねえ、さっきから二人で何の話をしてるの? 私にも教えてよ」
と、ちょっと不貞腐れたような顔をして私たちの方を見る。
「景子ちゃん、ごめんね。二人の秘密の話なの」
私が謝ると、続けて由紀恵も、
「ごめんな」
と、顔の前で手を合わせて見せた。
それで景子は何かを察したのか、単に諦めたのか、とりあえずそれ以上、私たちの会話を追及しようとしなくなった。私と由紀恵は顔を見合わせてクスッと小さく笑う。
こうして、私たちの部屋に新しい仲間が増え、四人での新しい生活が始まった。だけど、それは決して楽しいばかりの生活じゃない。だって、みんなそれなりに大変な病気を抱えているのだから。
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