第2章 羨望と嫉妬

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 私はワイワイと何人かがはしゃぐ声で目を覚ました。目を開けてゆっくりと体を起こしてみると、由紀恵のベッドのそばに、三人の女子が立っていた。どうやら、由紀恵の友達が見舞いに来ているらしい。由紀恵も笑顔で楽しそうに友人たちと話をしている。  そんな由紀恵は、私が体を起こしたことに気づくと、 「ごめん、起こしたか?」  と尋ねた。 「ううん。大丈夫だよ」  私は答えた。実際、もう吐き気はおさまっているし、体の怠さも殆どない。何時間くらい寝ていたのだろうと思いながら時計を見ると、午後四時を回っていた。どうやら三時間くらい眠っていたらしい。  景子と優美のベッドを見てみると、そこに彼女たちの姿はない。きっと、図書室かどこかに行っているのだろう。由紀恵の邪魔にならないように、私も図書室にでも行こうかとベッドから降りかけたとき、由紀恵の方から声かけてきた。 「琴美、こいつら陸上部の仲間なんだ」  由紀恵が友人たちを指しながら言った。見てみると、確かに三人とも由紀恵と同じように肌がこんがりと小麦色に焼けている。 「そっか。お見舞いに来てもらってよかったね」  私は言った。私のその言葉には、少しばかり羨ましさと嫉妬が含まれている。私の同級生も、部活の仲間も、私が入院した最初の頃は、ときどきこうやってお見舞いに来てくれた。だけど、時間が経つにつれて、だんだんとその期間は開きがちになり、今となっては誰もお見舞いになんて来てくれない。きっと、みんな私のことなんてもう忘れてしまったのだろう。そう思うと、ときどき寂しくて悲しくて切なくて仕方がなくなる。  だけど、そんな私の気持ちが、今の由紀恵にわかるはずもない。由紀恵は笑顔で私の方に向かって話しかける。 「よかったら、一緒に話でもしないか? こいつら、面白い奴らだし」 「でも、私にはわからない話もあるし、それで白けちゃっても悪いから」 「大丈夫。そんなこと気にしなくていい」 「ありがとう。でも、ちょっと読みたい本もあるから、図書室に行ってくるよ」  私はそう言ってベッドから降りて病室を出た。病室の中からは、由紀恵たちの楽しそうな会話が相変わらず聞こえてくる。私はそれが聞こえないように、両手で耳を塞ぎながら、部屋から離れていった。そして、図書室の方に向かう。景子と優美がそこにいるのかどうかはわからない。ただ、今は自分の部屋にいたくはなかった。そして、私の中の嫌な本音を、由紀恵に悟られたくもなかった。
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