第4章 創作

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第4章 創作

 その日から、私と優美の執筆活動が始まった。これまでに小説を書いたことのない優美は、最初の一文を書いては消し、書いては消しを繰り返している。そんな隣で、私は書きかけの小説の手直しをしてゆく。  ハッピーエンドにするか、バッドエンドにするか。それはまだ私の中では決まらない。これから文章を重ねながら、作中の二人の世界にどっぷりと浸かっていけば、(おの)ずとその答えは出るはずだ。  一時間ほど手直ししたところで、 「ああ、どうしても最初の一文が書けない!!」  と、優美が珍しく苛立った声を上げた。 「どうしたの?」  私は自分の原稿を伏せ、優美に問いかける。 「どうしても最初の一文が書けないの。どんな話にするかは何となく決まってるんだけど、何回書いても最初の一文に納得がいかないの」 「私も小説を書き始めた頃はそうだったよ」 「ねえ、琴美さんはどうやってそれを克服したの?」 「うーん、どうだろう……」  私は首を捻ってから、 「今でも多分、克服はできてないかも」  と付け加えた。 「克服できてないって、どういうこと? それじゃ、小説なんか書けないでしょう?」 「そうだなあ、私の場合、最初の一文に納得がいかなくても、とりあえず続きを書いてみることにしてる。書いてるうちに、素敵な一文が思い浮かぶかもしれないし」 「思い浮かばなかったら?」 「そのときは諦める。どちらにしても、最初に(こだわ)りすぎると前には進めないからね」 「うん、わかるような気がする」  優美は頷いた。  何だってそうかもしれない。最初で立ち止まってしまうと、何も前には進まない。まずはやってみることだ。やってみて駄目だったら、そのときに別の方法を考えればいい。決して小説を書くことに限ったことじゃない。  優美は納得したのか、さっそくノートに文を連ね始める。一度進み始めると、優美はなかなかのスピードで書いてゆく。どんなストーリーを作り上げようとしているのかはわからないが、出来上がるのが楽しみだ。もっとも、私の方も来月までに小説を完成させないといけないから、うかうかしてられないのだけど。  私たちがすっかり創作活動に没頭しているせいで、由紀恵と景子はずいぶん退屈そうだ。景子はときどき優美に話しかけたり、私に話しかけたりしてくるけど、私たちが空返事ばかりするせいで、相手をしてもらうことをすっかり諦めたようだ。そして、由紀恵のベッドの脇の椅子に座ると、 「由紀恵姉ちゃん、退屈だよね」  と聞えよがしに言う。 「ま、まあ、確かにな」  由紀恵は苦笑いしながら答えた。
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