第2章 羨望と嫉妬

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第2章 羨望と嫉妬

 私は一週間に一回、抗がん剤の点滴を受けている。体質のせいなのかどうなのかはわからないけど、幸いなことに今のところ、テレビや映画で見るように髪の毛が抜けてしまったということはない。だけど、点滴を受けた後は、しばらくひどい(だる)さと吐き気に耐えなければならない。  抗がん剤を点滴した後の私を見て、これから治療が始まる由紀恵が恐る恐る尋ねてくる。 「なあ、琴美。抗がん剤ってそんなにきついのか?」 「う、うん、まあね。体質にもよるらしいけど」  私は何とか声を絞り出した。 「髪の毛は抜けないのか?」 「それも、体質によるのかも」  そう答えた瞬間、ひどい吐き気が襲ってきて、脇に置いていたガーグルベースンの中に思わず嘔吐した。 「大丈夫か!?」  由紀恵が慌ててベッドから飛び降りてきて、私の背中を擦ってくれる。そんな様子を、景子も優美も心配そうに見つめている。 「しんどい時にいろいろ訊いて悪かった」  由紀恵は私の背中を擦りながら、申し訳なさそうに言った。 「こっちこそごめん。もう大丈夫だよ」  私はそう答えて、ゆっくりと体を起こした。由紀恵はそんな私の背中を、優しく支えてくれる。そして、私が一人で座れることを確認してから、自分のベッドに戻って行った。  由紀恵は私のこんな姿を見て、ひどく不安になっているに違いない。何せ、由紀恵もこれから私と同じ治療を受けていかなければならないのだから。いろいろと尋ねてみたくなる気持ちもわからないことはない。  だけど、あまり変なことを言ってしまうと、由紀恵を必要以上に怖がらせてしまうだけだろう。嘘を吐くわけにはいかないけど、それなりに黙っておかなければならないこともある気がする。それに、由紀恵も私と同じようになるとは限らないのだから。  由紀恵は不安そうな顔をして私を見ている。まだまだ何か訊きたそうな顔をしているが、私はそれに答えていく自信がない。何をどのように答えれば良いのか、私にはわからないのだ。それに、体調の面からしても、それほど長い時間、話していることもできそうにない。  私はもう一度ゆっくりと体を横たえてから、 「ごめん、少し寝るね」  と言って目を閉じた。  それ以上は由紀恵も声を掛けてくることがなかったけど、ひどい吐き気のせいで眠ることもできない。ただひたすら、気持ちの悪さと戦わなければならない。それでも、そのうち私は眠りに落ちていた。  
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