はつ恋

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 中等部一年生の時、私は誰もいない教室で原稿用紙に文字を連ねていた。間違えた。消しゴムに手を伸ばそうとした時、ある考えが頭に浮かんだ。消しゴムを失くしてしまえば、新しい大きな消しゴムを使える。その瞬間、消しゴムを人差し指でピンと弾いた。黒ずんだ豆粒は猛スピードで転がって、視界から消えていった。これでからかわれることはない。再びシャープペンを走らせようとした時、机に握りこぶしが置かれた。その手が退くと、黒ずんだ小さな消しゴムが机の上に現れた。 「はい、落とし物」  見上げると、文芸部の部長・佐倉先輩がこちらを向いて微笑んでいた。 「……ありがとう、ございます」  なんで拾っちゃうの? 喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込みながら、私はつくり笑いをする。ぎこちなさが伝わってしまったのか、佐倉先輩は「どうした?」と優しく訊いてくれた。男の人にこんなことを話すのは少々躊躇われたが、覚悟を決めて事の経緯を話した。
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