はつ恋

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 私が通う私立桜宮学園では、この原稿用紙が伝統になっている。創立十周年記念に作られたものらしいが、綺麗なのはまっさらな状態の時だけで、書き直しが多い私にとっては消し跡でところどころ黒ずんだ原稿用紙を提出するのが毎回恥ずかしかった。また、私は文芸部に入部しており、その作文が張り出されることもあるから余計に注目を集めそうで怖かった。  そういうこともあってか、私は中等部の時、クラスの男子によく消しゴムが小さいことから貧乏症とからかわれていた。黒ずみが薄くなるまで懸命に消していたらいつのまにか消しゴムは豆粒ほどに小さくなっていた。そこに付け込んで男子はことあるごとにからかってくる。消しゴムは真っ黒で私を闇へ吸い込むブラックホールのように見えた。  高等部に上がった現在でも、私の消しゴムは豆粒大のままだった。だが、もういじめてくる者はいない。再び消しゴムに手を伸ばすと、取り損ねてコロコロと地面に落ちて転がってしまった。慌てて拾おうとした時、ある思い出が頭の中に過った。
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