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「あたしずっと、時生の否定的な言葉が嫌だった。会ったこともない元同僚たちを否定されたときなんか悔しくて悲しくて腹立たしくて涙が出そうだった」
時生の目はただ真剣に伊吹を見ていた。
「でも、本当はそんな風に時生に言わせてたのは私の普段の言動からだったんじゃないかって考えてたの。毎日、家事に仕事にって同じルーティーンの中で、私が時生を蔑ろにしてたんじゃないかって。本当にごめんなさい。大切にしなきゃいけなかったのに、いつの間にか日常に慣れて、そんなことにも心を配れなくなってた」
それが答えだった。いつだって、帰れば当たり前の家があって、当たり前に家族が帰ってくる。そんな日常にいつしか浸食されて、嬉しいことも楽しいことも浮かばない日々を過ごしていた。
人が生きながらに生まれ変わる瞬間があるとするなら、自分と向き合って日々を見つめ直すときなんじゃないかと、伊吹は思った。これが本当に生まれ変わることなんだと。これからの日々をどう過ごしていくかで、それが形になっていくのだろう。日々を、この人と向き合っていくんだ。そう心に決めて。
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