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時生の仕事、伊吹の仕事、育児に家事。やるべきことを考えるのではなく、心や口に出すものを私たちは疎かにしていたんじゃないだろうか。時生はちゃんとそれに気付いてくれているだろうか。
「でも、って、他になんて言ってほしいの?言ってくれなきゃ分かんねぇよ」
低い声で時生が言った。それでまた伊吹は頭に血が上りそうになる。冷静に、と心で自分に言い聞かせる。
「謝ってほしいとか言ってるんじゃないよっ」
それでも語気が強くなるのを抑えることができなかった。冷静に、冷静に。また言い聞かせた。
「そうじゃなくて。お互いのこと、賢太のこと、これからどうしたいのか考える時間をちゃんととらないといけないと思ったの。あんな言葉を子供に言わせるような家は間違ってるって思ったから家を出たの」
あんな言葉――僕がいるから離れられないんでしょ、賢太はたしかにそう口にした。苦しそうに。伊吹達夫婦の仲が良くないことを子供である賢太が空気で察することができてしまうほどになっていた。
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