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あの電話の日から一ヶ月が経つ。彼はどう過ごしているのだろうか。驚くことに、あれから電話どころかメッセージのやり取りすらしていない。賢太も実家での生活にだいぶ慣れたようで、夫と過ごしていた頃よりも笑顔が増えたような気さえする。この悲しみにも似た胸の痛みがどこからくるものなのか、伊吹は分からないでいた。
「今日哲也んち寄ってから帰ってくるけどいい?」
実家に戻ってから、賢太の門限をすこし緩めていた。家にいることが苦痛だっただろうに、家に縛り付けていたのを申し訳なく思ったからだった。いいよ、と伊吹が答えると賢太は今日も笑顔で学校に出かけていった。
すると後ろから母が伊吹に声を掛けた。
「あんた今日も早く帰ってくるのよね?夕飯の買い出し、一緒に行くかい?」
「あ、うん。そうする」
実家に戻ってからというもの、夕飯はほとんど母に任せていたものの、手伝い程度に伊吹もキッチンに立っていた。家のこと一切を母に任せてしまったら、賢太の母として自分がなにもしていないということに罪悪感が芽生えるからだった。
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