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短い呼び出し音の後、電話が繋がった。
「……」
相手は無言だ。やはり警戒している。
「石井か? 花林だ」
「……花林先輩っスか」
警戒交じりの声だ。
「お前、大丈夫だったか?」
何が。なのか自分でもよく分からない。大輔の話が頭に引っかかっていて、反射的に出た言葉。
「……まあ、ええ。先輩こそ無事だったんスね」
「有里の件か? こっちも何とかな」
話をしていて、大輔の声真似がいかに高レベルだったか分かる。声、話し方、イントネーション、全てにおいて本人と相違がない。
「昨日約束していたのに、行けなくて悪かったな」
「いえ、事情は大体聞いてるンで……。先輩は加藤のこと……聞いたスか?」
「粗々はな。撮影だったこと、加藤は本当は生きてたってことも──」
「加藤は、死んだんスよ」
遮って語られた石井の声は暗く沈んだものだった。
「……いやだからそれは、嘘だったんだろ?」
「違います。加藤は本当に殺されたんス」
「どういうことだ?」
「真取大輔って、わかります?」
知ってるも何も、大輔とは今電話していた。
そのことを伝えるか否か。深い思慮があったわけではないが、それを控え「ああ、知ってる」という返事に留めた。
「一時間ほど前、真取から電話があったんス。加藤が殺されたぞって」
「……大輔から?」
大輔は俺の前に、石井に電話したんだな。
「場所は先輩もご存知の、あのビルの3階。今朝、事務のおばちゃんが発見したそうなんスよ」
「殺されたのは今朝か?」
「……わかんねえス。最後に電話したのは、先輩と居た時スよ」
加藤は、俺の前で死んだことになっていた。
それ以降連絡が取れてなかったのなら、どの時点で本当に殺されたのかは分からない。
「俺と一緒に居て、電話した時は間違いなく生きてたのか?」
「ええ、それが最後っスけど。それ以降はLINEも電話もなくて、おかしいなとは思ってたんスけど。つーか……その事件の犯人が、どうやらオレってことになりそうなんスよっ」
どこか投げやりな言い方で、ははっと軽い笑い声さえ聞こえた。
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