──を ──は、いけない

12/27
前へ
/237ページ
次へ
 うつ伏せになっている奴をゆさぶってみる。顔が分からないのでスマホで照らしてみると──ミステリーサークルの一人、加藤壮一(かとうそういち)だった。  年齢は一つ下の十九歳。  いつもメガネを中指でくいっ、とあげて、うんちくを語っている印象が強い。本人は知的なところを見せたいのだろうが、周囲からは、煙たがられていた。  収入は仕送りだけらしいが、親がいいところの勤めだと、自慢していたのを覚えている。  なんでこんなところに? さては俺を待ち伏せして、寝てしまったのか?    起こそうか、少し迷った。  こいつが目を覚ましたところで、何を話せばいいのか分からない。  しかしこの一件がサークルでの悪ふざけとしたら、言いたいことはある。不本意だが、起こそう。 「なあ、加藤……おいっ」    軽く揺さぶってみるが、「ううーん」とうなるだけで、起きそうになかった。  不意に、ギィッ……と軋む音が響く。  このオフィスの扉が開いたようだ。  おそらく、このビルに入ってきた足音の主。  サークルの誰かか? きっとそうだ。そうに違いない。逆に脅かしてやる。    そう自分に言い聞かせたのは、認めたくはないが、言い訳だった。  姿の見えない侵入者に、ビビってた。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1208人が本棚に入れています
本棚に追加