1208人が本棚に入れています
本棚に追加
うつ伏せになっている奴をゆさぶってみる。顔が分からないのでスマホで照らしてみると──ミステリーサークルの一人、加藤壮一だった。
年齢は一つ下の十九歳。
いつもメガネを中指でくいっ、とあげて、うんちくを語っている印象が強い。本人は知的なところを見せたいのだろうが、周囲からは、煙たがられていた。
収入は仕送りだけらしいが、親がいいところの勤めだと、自慢していたのを覚えている。
なんでこんなところに? さては俺を待ち伏せして、寝てしまったのか?
起こそうか、少し迷った。
こいつが目を覚ましたところで、何を話せばいいのか分からない。
しかしこの一件がサークルでの悪ふざけとしたら、言いたいことはある。不本意だが、起こそう。
「なあ、加藤……おいっ」
軽く揺さぶってみるが、「ううーん」とうなるだけで、起きそうになかった。
不意に、ギィッ……と軋む音が響く。
このオフィスの扉が開いたようだ。
おそらく、このビルに入ってきた足音の主。
サークルの誰かか? きっとそうだ。そうに違いない。逆に脅かしてやる。
そう自分に言い聞かせたのは、認めたくはないが、言い訳だった。
姿の見えない侵入者に、ビビってた。
最初のコメントを投稿しよう!