──を 思い出してはならない

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「そして俺と、グランドパーキングで会ったんだよな」 「正直驚いたスね。ビルの屋上で寝てたはずの先輩が、こっちの駐車場にいたんスから」 「待ち合わせの相手は有里だったのか?」 「……そうっ、スね」 「変わったところで待ち合わせするんだな。わざわざ有料駐車場を利用するなんてよ。お前が電話してた公園の駐車場でもよかったんじゃねえのか?」 「いや、だって公園だと、人が来るじゃないスか。グランドパーキングの屋上なら、そんなこともないんで……」  コイツ、有里と車内でヤるつもりだったのか?  話を続けようとするが長電話のせいで、耳が痺れてきた。 「ちょっと待ってくれ。長電話でキツくなってきた」 「大丈夫ッスか? 血で滑らないように逆の手で持ち替えたほうがいいっスよ」 「だな。それで石井は今どこにいるんだ? 会って話できねえか?」 「会ってっスか?」  声に動揺が漏れる。学年は違うし裕二ほど親しい仲じゃねえ。ソロで会うのは気まずさもある。 「いや、お前、今公衆電話だろ。昨日だって、本当はファミレスで会う予定だったじゃねえか」 「ああ、そうっスね」 「今どこにいるんだ? 近くならこっちから行くし、遠くならわりいけど迎えにきてくれよ。俺は車がねえしな」 「先輩はどこですか?」 「こっちは──」  一度振り返り、病院の看板を見る。 「若葉総合病院ってところだ」 「了解っス。こっちはですね……ここ、どこなんだ? ちょっと待って下さいね」  受話器から離れて目印でも確認に行ったのだろう。間が生まれた。  昨日から始まった"事件"が、ただの映画の撮影でした。というオチだったら、どれだけよかったか。 「……」  人知れずため息をつく。分かっている、これは映画の撮影なんかじゃない。
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