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多くの部外者はどう説明する? 美紀のアパートのハイエースも含めて、みんな加藤が雇ったエキストラ?
俺はグランドパーキンクで警察に電話したし、有里に拉致されて暴行まで受けた。救急車も呼んでいる。
実は撮影でしたすいません──そんなわけない。
石井が電話を離れたわずかな『間』が、あいつの掘った墓穴に投じる一石を、手中に収めさせてくれた。
(あいつ……確かあの時……)
「お待たせしました。若葉総合病院っスね。そんな遠くないんで今から──」
「なあ、石井が『撮影』に関わったのは、俺を屋上に運んだ時だけか?」
「はい? ええ、まあそれ以降は特に……」
「石井は、関与していないんだな」
「……何の念押しっスか?」
「今回の一件な、加藤に指示を──いや、全貌を指揮していたのは誰かって、大体の見当がついてんだよ」
「マジっすか? 誰が【NG】か分かったンすか?」
「最初は石井を疑ったりもしたが、危うく騙されかけたよ。石井じゃねえ」
「当然っスよ! 【NG】はオレじゃないっスよ!」
「ああ、もちろん石井でも、お前でもないんだろうな」
「……石井でもお前でもない? 先輩、日本語おかしいっスよ?」
「間違ってねえよ。いいか? まずお前の言ってることは、おかしなことが多すぎるんだよ。大学の講義の日程を知らなかったり、長電話でキツくなってきた時に『血で滑らないように逆の手で持ち替えたほうがいい』と言ったよな? 右手を負傷したのは昨日のことで、なんでお前がそのことを知っている? ちなみに俺がキツかったのは、耳が痛くなってきたからだ。
そして『【NG】が誰かは分かったンすか?』とも言った。お前のいう【NG】ってなんのことだ?」
「いや、先輩は色々調べてるみたいでしたから、何が【NG】だったか……そう、誰がミスしていたのかって聞いたンす」
お前の答えそのものがNGだよ──その言葉は、心の中で留める。
「その言い訳は苦しいな。お前は『誰が』って言ったろ。何で【NG】って単語が、特定の誰かを指す、人の名称だと思ったんだ?」
「‥‥!」
「石井は屋上に俺を運んだ。お前は『オレは関与してないっスね』と言った。なるほどなぁ、屋上に運んだのは石井であって、自分ではないと」
ピリリリリ…… ピリリリリ……
スマホの着信音が響いた。聞こえるのは、電話の向こうからだ──
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