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「お前、スマホの充電が切れているから、公衆電話から掛けたって」
「違うっス、切れそうだったんスよ」
苦しい言い訳だ。こいつ、昨日電話した偽者の石井か。
俺を屋上に運んだ件も『オレは関与してないっスね』というのは、関与していたのは石井であって、自分ではない──と。
ただこいつは石井の偽物であるだけで、【NG】ではないと思っている。
俺の思う【NG】がアイツなら、俺の手の怪我は知らないはずだ。
どこからか俺を監視している奴がいたとして『花林恭介は右手を怪我しています』という報告など「だからどうした?」そんなレベルの話だろう。
先ほどの『逆の手で持ち替えたほうがいい』という言葉は、それを知ってる奴が口を滑らせてしまった。
自然とこの言葉が出た。【NG】は石井でも、お前でもないんだろうな、と。
電話の向こうで鳴り続けていた、スマホ着信音が途切れた。
「なあ、石井。このまま美紀のスマホ鳴らしてみてくれねえか?」
「……え? 今っすか? でも今、電話中っスよ」
「電話してるのは『公衆電話』だろ。お前のスマホで、美紀のスマホを鳴らしてみてくれよ」
「はあ? なんでそんなこと……それにバッテリーもないンすよ?」
「"鳴らす"だけでいい。ワン切りでいいから」
「分かりまし……」
言いかけて、言葉に詰まった。
「どうした?」
「すいません、今の着信でバッテリーがゼロになってしまいまして……」
「かけられねえのか? それとも、美紀の番号までは調べてなかったか?」
「……何のことスか?」
「ならいいよ。ところでお前、昨日はどこのファミレスに行ったんだ?」
「そりゃ、先輩と待ちあわせしてたトコっスよ」
「分かってる。なんてファミレスだ?」
「ファミレス行ったなんて、言いましたっけ?」
「お前言ったよな? 俺がファミレスに来なかったスから、事故にでもあったのかとって。お前は待っててくれたはずじゃないのか? "石井"さんよ? ──てめえは誰だ?」
「……ふふっ」
電話の向こうの人物が、不敵に笑った。
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