──を 思い出してはならない

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 その声に聞き覚えがあった。 「うっかりしてたねえ。降参だよ」  こいつはそう、真取大輔だ。 「完全に騙された。うまいんだな、声真似」  ボイスチェンジャー? 電話に細工?   「石井寛治くんが隣にいるってオチでもないよ?」  見透かしたように、大輔が付け加えた。 「真取……だったな」 「大輔でいいさぁ。それで、なーんだい?」  電話越しにくっく。と笑い声が聞こえる。 「なぜ石井になりすましてた? お前、今度は石井をどうにかした(、、、、、、)のか?」 「ああ昨日のこと? 人聞きが悪いねえ、裕二君も叔母さんも、ぼくが指示したわけじゃない。言ったろう? ぼかあただの『案内役』だって」  「このやりとりは、石井のフリして俺を誤った真実に『案内』するつもりか?」  電話の向こうで、大輔がぐふっと噴き出した。 「なるほどねえっ。それは正解とも不正解ともいえる。これはねぇ、正直ぼくにとって、どちらでもいいのさ」  曖昧な言葉──どうとでも解釈できる言い方だ。 「お前の話は全て嘘だったのか?」  率直な問いかけ。 「"石井"として語ったことを疑っている? それなら石井本人に直接確認すればいいじゃない」  ……確かにな。 「この電話も【NG】の指示か?」 「どうかねえ。と言っても君はもう【NG】が誰か見当がついているんだろ? この電話が指示か否かは、分かりそうだけどねえ?」 「……まあな。この電話は指示──」 「あーっいいよいいよ。答えはノーサンキュー。言ったはずだよ、ぼかあどちらでもいい(、、、、、、、)ってさ」  それは俺が自分の答えを信じて動こうと、大輔の思惑に誘導されようと、どちらでもいいということだ。 「アンタに『案内』されるのは、俺自身の信じた答えってことか」 「そういうこと。ところで……おっと、なんだい? ここは使用中だよ。ああ失礼。割り込みされそうになってね、せっかちな奴もいたもんだ。ところで──正美さんは無事だったのかな?」  スマホを持つ手が、緩みそうになった。危うく落としかけて掴みなおす。 「……ああ、おかげさまでな」
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