──を 思い出してはならない

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「それじゃあ君の出した『正解』を見届けさせてもらうとするかねえ」  語尾が少し遠くなる、受話器を離し、通話が終わるタイミング── 「なあ大輔さん」 「ん?」    俺は電話をもらう直前まで、【NG】は石井だと疑っていた。  この電話は【NG】の指示じゃない。  さっき言いかけて遮られた言葉。だから疑問が残った。   「一ついいか。今の話が本当なら、石井を【NG】だと疑うより違うと確信した。仮に石井=【NG】だと疑っていても、考えを覆されただろうな。 【NG】は、行方をくらましている。あんたはそっち側じゃないのか?」  大輔が『石井』として語る話を、全て信じたわけじゃない。だが石井に確認すれば、すぐ分かる。   「恭介くん。『案内人』って言葉の意味、わかってる?」  中立といいたいのか?  でもこれじゃ、俺にヒントを与えただけ。疑わないほうが難しい。  そのわずかな沈黙を、困惑と読んでか──大輔は話を続けた。 「ぼくはねえ、天邪鬼(あまのじゃく)だから、気にいらないだけさあ。盤上を眺め、巧みに人間(コマ)を配置し操る──全ての事柄が自分の思い通りに進んでいると確信している奴のさ、横っ腹を殴りつける存在がいても、面白いじゃない?」 「その存在が俺だと?」 「独り言。君がどう動こうと知ったことじゃあない」 「あんた、いい性格してるな」 「褒め言葉と受け取ろっか。ああそうそう──本物の石井くんだけど、ちょっと大変なことになってるかもね?」 「どういう意味だ?」 「だから本人に聞いてごらんって。電話が繋がればねぇ、それじゃあ失礼」  意味深な言葉を残し、今度こそ電話は切れた。  ……大変なこと?  すぐさま石井に電話をかけた。  呼び出し音が鳴るが、反応がない。    電話に出られない状況、あるいは警戒しているか。  一瞬の閃き。今度はもう一つのスマホで、石井に電話をかけた。
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