──を 思い出してはならない

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「……【NG】ってのは何スか? 暗号か何かっスか?」  石井との(、、、、)会話で、【NG】という単語は一度も使っていない。  大輔は【NG】を知っているが故に引っかかったが、石井は引っかからなかった。だが石井は【NG】を知っていると確信していた。  「茶番はいい。知ってるんだろ?」 「……」   石井は答えない。 「知ってる前提で話をするぞ。加藤を殺したのは、【NG】じゃねえのか?」 「それはないっスよ。だってコイツ、それより怪しい奴を思い出しました。和達ス、和達良平っスよ」 「それはねぇよ。何より動機がない」 「なら、真取っスかね。それとも加藤に恨みを持った第3者が──」 「なあ石井」強引に石井の言葉を遮ぎる。「俺は最初、お前が【NG】だと思ってた」 「濡れ衣っス。オレじゃ! ありませんっ」  石井の反論に荒い呼吸音が混ざる。ずいぶん興奮しているようだ。 「お前は【NG】が、誰か知っていたのか?」 「知らないスけど……でも、もしかしたらって奴はいました」 「美紀か?」  受話器の向こうで、石井がぐっ。と、言葉をこらえるのわかった。 「でもあいつは……」 「ああ分かってる。"このスマホ"で通話した日のこと、覚えているか?」 「ええ、美紀に電話したら先輩が出て、美紀が……殺されたって言われて。だから美紀が【NG】だとしたら、加藤を殺すのはありえねえンす」 「なんで美紀が【NG】だと思った?」 「いや、えっと、あいつのスマホをこっそり覗いた時があって、その時に……」  バツが悪そうな返事だ。 「俺を送ってくれたあと、美紀と会ってたのか?」 「先輩を駐車場の前で拾った時っスか? いや、真っすぐ帰ったっスよ?」  最初に【NG】からメッセージを受けたのは確か……グランドパーキングの管理人室でだった。  だがLINEは電話番号さえわかれば登録できる。あらかじめ仕込んでおく必要がないので、タイミングは重要じゃない。  石井には昨日の【NG】のことは、あえて(、、、)口にしなかった。
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